悲しみを伝える第三者の難しさ=韓国のおじさんの言葉をウザいと思った苦い思い出。 [沖縄の現実]
悲しみを伝える第三者の難しさ=韓国のおじさんの言葉をウザいと思った苦い思い出。
留学時代。大韓航空が安いので良く利用した。乗客は韓国の人が多い。当時、年配の人はほとんどが日本語が話せた。僕が日本人だと分かると、あれこれ話しかけられた。当時、僕は日本が戦争でやったことをほとんど知らずにいた。関西育ちなので、何となくは知っていたが詳しくは知らなかった。そんな事情をよくご存知なのだろう。年配の韓国のおじさんは日韓併合時代の話をして来た。
最初は世間話なのだが、次第にその話になり、説教になった。「あなた方日本人は本当に酷いことをしたんだよ」と話す。LAまで10時間。延々とその話をされる。今なら、録音してでも詳しくインタビューしたいくらいだが、当時の僕はアジアに関心がなく、ひたすらハリウッド映画が好きなだけのアホな若者であり、正直、ウザいなあと感じた。
おじさんは日本の青年が自国が隣国にしたことを知らない現状を知り、これではいかん!と事実を伝えようとしたのだろう。その動機は理解する。が、それを飛行機の中で隣に座っただけで、延々と聞かされては堪らない。当時の僕はまるで関心がなかったし。今ではあの時に話を聞いておけば、質問もすればと思う。それと同じように、東京や大阪の、いや、日本の多くの街の人たちが沖縄戦に関心を持たないのだろう。
「なんか、沖縄は基地問題でまた騒いでいるなあ」
と人ごと。原発問題とも同じ構図。
「総理がもう収束したと宣言したのに、まだ騒いでいる。バカじゃない?」
という人たちと同じ。沖縄を慰霊の日に訪ねると県民、マスコミ、自治体が一体となって、あの沖縄戦の悲劇を絶やさないように伝えようと努力している。が、翌日、帰京すると東京のマスコミは安部総理のスーピーチを短く伝えるだけ。何が必要なのか?
例えば近年大ヒットした「カメラを止めるな」低予算で宣伝費も僅か。それをAKBか誰かアイドルが「面白い」とツイートしたところから火がついたと言われる。あの映画。スタッフ、キャストは本当に頑張っている。でも、それだけでは多くに伝わらない。
そこにAKBのツイート。そう第三者の存在が大事なのではないか? 前の記事でも書いたが、当事者の声は届きにくい。先の韓国のおじさんでも、僕はウザいと感じてしまった。でも、誰かが橋渡しをすれば...。それが「ドキュメンタリー沖縄戦」を制作していて感じたことだ。
悲しみを伝える第三者の難しさ=原発事故と沖縄戦の共通点 [沖縄の現実]
悲しみを伝える第三者の難しさ=原発事故と沖縄戦の共通点
「ドキュメンタリー沖縄戦」感想のほとんどは絶賛だった。が、極々一部にこんなのがあった。
「非常によくまとめてある。クオリティも高い。が、***事件を取り上げていない。また、護郷隊の存在も扱っていない。不勉強だ。他がよく出て来ているだけにとても残念」
***事件がない。**の戦闘がないという指摘は少しばかりあった。が、もし、それらを取り上げたらどうなるか? 現在の上映時間は1時間45分。その2つの事件を取り上げたら2時間越え。また、他の人は「***の戦いが抜けている!」という。それも入れると2時間15分。30分。45分。どんどん上映時間が長くなる。
沖縄戦に詳しい地元の方は評価してくれるだろう。だが、東京や大阪の人はどうか?3時間近いドキュメンタリー映画を見てくれるだろうか? 上映時間を聞いただけで敬遠する人が出てくるだろう。また、先の指摘の「護郷隊」。実は取材している。専門家の方からもお話を伺っている。が、「沖縄スパイ戦史」という同じ題材の素晴らしい映画が昨年公開され、全国で上映ヒットした。
同じ題材を繰り返し紹介する意味は少ない。「朝日のあたる家」の時も原発事故に詳しい人から「初心者向きだ。描かれたことは全部知っている」と批判されたが、当時、多くの人はそこまで知らない。何より専門家向きに映画ではなく、テレビで事故のニュースを見るだけの普通の人たちに向けた作品。その人たちに福島の悲しみを伝えるのが目的。それを飛び越えて「全部知っている!」と批判して何の意味があるのか? また、彼らが満足する特別な情報満載の作品を多くの人が観にくるだろうか?
沖縄戦も近い構図がある。「あの戦闘でお爺ちゃんが亡くなった」「あの事件は実家のそばで起こった」そんなことで悲しみは強くなるし、その事件を伝えるべきだ!という責任感も増す。体験していなくても詳しく勉強すれば「この事件は外すべきではない」と感じる。でも、その全てを取り入れると、長くなり過ぎて全国の人が観づらくなることも事実なのだ。
実際、沖縄で作られたドキュメンタリーには2時間越えのものがある。が、情報が多すぎて見終わった時にあまり残らない。作り手の熱い思いは分かる。だが、大切なのは沖縄戦を知らない人に、どう、分かりやすく、伝えるか?なのだ。関心を持ってもらうか?なのだ。なのに原発問題も沖縄問題も、強い関心がある人が一般が興味を持つのを止めてしまっている側面もあるのではないか?では、どうすれば関心のない人たちに知ってもらうことができるのか?(つづく)
悲しみを伝える第三者の難しさ①=原発事故を伝えて感じたこと [沖縄の現実]
悲しみを伝える第三者の難しさ=原発事故を伝えて感じたこと
「朝日のあたる家」公開時に福島から避難している方に強く言われた「映画に描かれた家族より、もっと酷い目に遭った方もいるんですよ!」そんなことは分かっている。何より「これが最悪のケース」と映画では謳っていない。原発事故に巻き込まれたある家族の物語でしかない。そこから事故の悲しみを伝える映画だ。にも関わらず「もっと酷い目に遭った人もいる!」という批判はどういう意味か? 困惑した。その方。後からメールをくれた。
「先ほどの失礼しました。映画界ではタブーと言われた原発事故を監督が描いてくれたことは本当に嬉しかった。私たちの悲しみを多くの観客に伝えてくれたこと本当に感謝しています。でも、この映画を観た人がーこれが原発事故なんだーと思われるのも悔しいのです。
映画で描かれた家族以上に苦しみ、悲しんだ人たちもいます。これが全てだと思われるのが耐えられなかったのです。でも、映画で全ては描けません。その一部でも描いてくれたことに感謝しながらも、事故はこの程度だと思う人も出てくるであろうと思うと耐えられなくて、あんなことを言ってしまいました」
そういう意味だったのか.....。難しい問題だ。もし、最悪のケースを描けば推進派から「それが全てであるように描いているが、そこまで酷いケースは僅かしかない。事故の恐怖を煽っている。危険な作品だ」と批判されただろう。そして、また、最悪とは何なのか?という問題もある。人が多く死ねば最悪なのか? 人が死ななければそれでよかったのか? ふるさとを失う。家を失う。仕事を失う。その家族には何の責任もないのに。それもまた最悪だと思える。
天災ならまだ分かる。が、原発事故は天才ではない。十分な安全対策をしていないことでの事故である。問題があるのにそれを隠して推進して来た。そのツケが電力会社ではなく、住民に回されるのも、最悪だと思える。話を戻そう。被災者の多くは映画を評価してくれた。「我々の思いを伝えてくれた」という声が多い。だが、一部には先のような方もいた。
同じことを「ドキュメンタリー沖縄戦」でも体験した。次回、そのことを書く。(つづく)
ドキュメンタリー沖縄戦」沖縄上映を終えて感じたこと。第三者の意味。 [沖縄の現実]
ドキュメンタリー沖縄戦」沖縄上映を終えて感じたこと。第三者の意味。
「朝日のあたる家」で原発事故の悲劇を描いた時も考えた。福島に何のゆかりもない僕が福島の悲しみを伝えることができるだろうか? 例えば福島県出身。福島育ち。一時期でも済んだことがある。親友が福島出身。彼女が福島の人。両親の親が福島。何かそんなことが作品を作る上での力となる。単なる同情やジャーナリズムだけで映画を作っても悲しみを伝えることができないのではないか?と思えた。
結果、それは杞憂であり「朝日のあたる家」は全国で大ヒット。福島の方々からも高い評価を頂き、全国でも「福島の人たちの辛さが理解できた」との声をもらった。今回、「ドキュメンタリー沖縄戦」で沖縄を描くことになった時も同様のことを考えた。福島と同様に、故郷でもなく、住んだこともない。友達も恋人も沖縄出身者はいない。だが、別の発想もあった。
原発は福島の関係者が描かなければ伝わらないのか? 沖縄戦は沖縄県人でないとダメなのか? というのも、原発事故を「朝日」で描いた時、福島から避難して来ている人に言われた。
「あの体験をどう伝えたらいいか?分からず、戸惑うばかり、あの辛さを言葉で伝えることができない。周りは腫れ物を触るようで。けど、この映画を見てもらえれば私たちの思いが伝わると思えました」
福島から避難している人たちを応援している人からも言われた。
「テレビや新聞報道で原発事故のことは知っています。でも、被災者の方の気持ちは分からない。どんな悲しみを抱えているのか? どんな心の傷を負ったのか? それが映画をみて分かりました」
そう、当事者は思いを伝えられず、支援者も悲しみの多くを受け止めることができない。それは沖縄戦でも同じであろうと思えたのだ。第三者だから伝えられる。第三者だから効くことができる。当事者の言葉は重いが、それだけでは伝わらないものも感じた。悲しみを伝える第3者の存在。重要な立場であること。今回も感じた。詳しくは次回に。(つづく)
「ドキュメンタリー沖縄戦」が大盛況で終了。 帰京し、ほっとしたら、 [沖縄完成披露上映会]
「ドキュメンタリー沖縄戦」完成披露上映会@沖縄 終了後にデニー知事訪問。 [沖縄完成披露上映会]
お陰さまで満員御礼の連続。千人が来場。「全国の映画館でこの映画を上映し、沖縄戦を伝えて欲しい」との声 [沖縄完成披露上映会]
ドキュメンタリー沖縄戦ー完成披露上映会@沖縄。
お陰さまで満員御礼の連続。千人の方がご覧になりました。そして「全国の映画館でこの映画を上映し、沖縄戦を伝えて欲しい」との声を数多く頂きました。何とか全国公開ができるように頑張ります。
「ドキュメンタリー沖縄戦」予告編=> https://youtu.be/81I-BLROlxY