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物語を作る難しさ=意外に知らないシナリオ以前の作業? [映画業界物語]

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物語を作る難しさ=意外に知らないシナリオ以前の作業?

シナリオを書く時。どんな物語にしようかな?と考えるが、それ以前にどんなスタイルの物語であるか?考えなければならない。例えば原発事故の映画だとする。テーマは「事故の悲しみを伝える」では、誰の視点で描くか? どの立場の人で描くか? を考える。官邸を舞台にする? 福1が舞台? それとも住民か? あるいは官邸と住民。福1と官邸という組み合わせ。全部と言うのもありだ。

さらに官邸を舞台にするなら、視点は総理か? 官房長官か? それとも秘書官か? いろんなパターンが考えられる。福1なら吉田所長か? 職員か? 住民の場合なら年齢?性別?職業? 福島の人? 他県の人? 東京の人?いろんなパターンがあり得る。それらの中で作家が描きたいテーマを描く上で、一番効率的であり効果的な設定を選ぶことが大事。

周防正之監督が冤罪を題材とした映画「それでもボクはやってない」では、3通りのシナリオを書いたという。電車で痴漢に間違えられ、訴えられる主人公を、青年、サラリーマン、そしてもう1パターン。それぞれ年齢と職業の違う男性を主人公にして、一番、冤罪事件がリアルに、いかに酷いものであるか?が伝わるものを選んだと聞く。

基本は同じなのだが、主人公の年齢や仕事によって、周りの反応が違ってくる。学生なら周りから批判は浴びる。会社員ならそれだけで済まずクビになるかもしれない。違った展開。観客が一番共感しやすい主人公であること。より冤罪のメカニズムが分かりやすいこともポイントだ。

戦争映画の場合も同じ選択がある。視点を、指揮官にするか? 兵隊にするか? 民間人にするか? 同じ戦闘を描いても違ってくる。岡本喜八監督の「沖縄決戦」は指揮官である牛島中将らの目線で描かれた。「連合艦隊」は指揮官である山本五十六の視点で進むが、同時に若い軍人である中井貴一や永島敏行の視点でも描かれる。「この世界の片隅で」は民間人の若い女性が視点。誰の視点にするか?こちらも決められたテーマを一番明確に描けるものを選ぶ。

そのテーマの決め方も難しい。原発事故、戦争、悲しみを伝えることがテーマだとしても、どのように伝えるか? 「被害者」を描くのか? 「加害者」を描くのか? 個人に絞るのか? 複数を描くのか? いろんな手法がある。そんな風にシナリオを書くまでにあれこれ考えることが多い。従来のパターン。刑事物なら「はみ出し刑事が犯罪者を追う」と言う風にすれば、あとはどんな犯罪者で、どんなアクションがあるか?を考えればいいので楽だが、これまでとは違ったスタイルで描くなら、その前段階から考える必要がある。

パソコンに向かいシナリオを書き出すのは、それらが全て決まってからだ。でも、テーマ、スタイル、視点、等を考えるには何ヶ月も、時には何年もかかる。周防監督のように数パターンのシナリオにしないまでも、いろんなパターンを考える。時間をかけることが大事。頭がいいからと、すぐに思いつくものではない。毎日、あれこれ、長期間考え続けて「あー!」と言うアイディアが浮かぶ。

だが、依頼の場合。連絡があって「数週間後にプロット見せて!」とか言われるので時間がなく、パターンのものになりがち。日本映画はそこに時間がかけない。だから監督や脚本家は日頃から考え続ける。映画を見たり、街をぶらついたり、毎日DVDを見たりしながら考える。ただ、それを見た人は言う。「映画監督はいいなあ。毎日、ブラブラしていられて、いつ仕事するんだよ?」物語作りは理解され辛い...。


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俳優はどんな芝居に燃えるのか?=彼らはチャレンジャーだ。 [映画業界物語]

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俳優はどんな芝居に燃えるのか?=彼らはチャレンジャーだ。

シナリオを書く前にすること。前回紹介した。では、シナリオを書くときに大事なこと。書いてみる。もちろん、ハラハラドキドキする展開にして。最後は感動して涙!と言うストーリーを考えること、と言うのはある。映画はまず娯楽。あまりに説教臭くなると観客は見てくれない。と言って、面白いだけでは映画館を出たら筋を忘れる作品では困る。テーマがしっかり伝わるからこそ、一生忘れない作品になる。

この辺はよく言われるし、シナリオ学校とかに行けば教えてくれること。それ以外の太田組スペシャルを内緒で紹介する。僕のシナリオは毎回、オリジナル。原作のないものだ。僕自身が物語を考えて自身で執筆、自分で監督する。その際に考えるのは俳優のこと。どうしても監督といいう立場にいると、俳優はチェスの駒になったり、操り人形的な存在になりがち。ストーリー展開に都合のいい台詞を言わせたり、主人公を引き立てるためだけに登場するキャラを作ったり。

だが、ストーリーのため、他人のために存在する役を演じる俳優は気分が悪い。「いや、どんな役でも、もらった役は全力で演じます」と言う真面目な人もいるが、どうせなら「やる気」が出る役がいい。と言って、誰もが主人公を演じられる訳ではない。そこでシナリオを書く時に、できる限り、俳優の力が入る設定を作る。と言うのは、俳優はチャレンジャー。カッコいい役をやりたいとか、可愛い役を演じたいとか思うのは素人で、プロは難しい芝居に挑戦したがる。

では、難しい芝居とはどんなものか? まず、長台詞。「渡る世間は鬼ばかり」を見ていると、やたら長いセリフがある。あれ、トチると最初から、共演者も最初から付き合う。スタッフも同じ。二度三度、トチったら、撮影自体が延びる。撮り残しを出すかもしれない。多くの人に迷惑をかける可能性がある。すごいプレッシャーなのだ。自分のせいでベテランの先輩俳優まで付き合わせることになる。その上、長台詞は難しい。どこで上げて、どこで下げて、どう着地するか? 俳優の実力が問われる。また、個性を出せる部分でもある。だから、プレッシャーだがとてもやりがいがある。

あるいは、芝居の中で芝居をする?!そもそも、俳優は自分でない他人を演じる。が、例えば刑事もので潜入捜査をする。刑事の役だが、暴力団に潜入。ヤクザの振りをする。これは芝居の中で芝居をすることになる。非常に高度な演技が必要。その切り替えが難しい。観客に「本当は刑事なのに、ヤクザのフリをしているんだ」と思わせることが必要。これもやりがいのある役。

あと、いい人より、悪役の方がいいと言う俳優さんがいる。板尾創路さんが以前「沈まぬ太陽」で悪役を演じた時、とても楽しかったと話してくれた。他にも陣内孝則、高嶋弟、とか有名どころが出ているが、皆、ノリノリで演じていた。俳優さんは基本的にいい人が多い。そしてスタッフにも気を遣う。そのせいか、毒付いたり、怒鳴ったり、と言う日常ではできないことをするのが楽しいのではないか? そして、ワルというのは優等生より、いろんなバリエーションができるので演じがいがあるのだろう。

他にも、涙を流す。物を壊す。暴れる。等、難しいがやりがいのある芝居というのがある。そんな場面を作っておくと、俳優さんのテンションが上がり、「どんな風にやろうかなあ〜?」とシナリオを読んだ瞬間から、役作りが始まる。また、過去にやったことのない役というのも喜んでくれる。俳優たちはチャンレンジャー。新しいこと、難しいことに挑戦したい人が多い。なので、挑戦しがいのある設定や役を用意する。

そのことで感動の名シーンが生まれたり、予想外の笑いが起こったりもする。俳優たちはいつも以上の力を出してくれるので、映画のレベルも上がる。俳優の力は大きい。その力を引き出すのが、監督の仕事ではあるが、その前のシナリオ段階で、彼ら彼女らをやる気にさせることも大切。俳優頑張る!=映画が面白くなる。ということなのだ。そんな思いで、毎回、シナリオを書いている。


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