SSブログ

一発屋をバカにしてはいけない=が、それで終わらずロングランするにはどうすればいいのか? [映画業界物語]

091012_150844.jpg


一発屋をバカにしてはいけない=が、それで終わらずロングランするにはどうすればいいのか?

お笑いや歌手の世界では「一発屋」と呼ばれる人たちがいる。少し馬鹿にした呼び方。「あいつは1発ヒットを飛ばしたが、あとは鳴かず飛ばず。結局、1発屋だったんだなあ〜」という言い方をする。が、それは一般社会で暮らす人が他人事として言うことであり、その世界を知る人なら、とてもそんなことは言えない。1発ヒットを飛ばすだけでも、物凄いことなのだ。

お笑い芸人なら毎日、起きてから寝るまでギャグを考える。それを事務所の勉強会で披露。番組オーディションで見せる。認められてテレビ出演。ウケれば次回も出演。ダメならそれで終了。また、アルバイトをしながらギャグを考える。何年考えても、数えきれない数のギャグを考えても、オーディションに受からず、テレビ出られない芸人もいる。

歌手も同様。昔ながらのパターンを紹介すると、歌唱力があり、ルックスもよく、芸の王事務所に所属。厳しいレッスンを経てデビュー。作詞家と作曲家の先生に書いてもらう。それを練習して、CD販売イベント。いろんなところで歌う。よほどでないとテレビには出れない。大手の事務所の力で、先輩歌手のバーターで出演。あるいはCMソングに採用。それらがきっかけでヒット。でも、次にもらった曲はパッとしなかった。テレビの歌番組には出たが、あまりウケず。次回のオファーなし。そこまでしても世間は「1発屋」と呼ぶのである。

歌手でも最近は自分で曲を作り、自分で歌う。これはお笑い芸人のギャグ作りに近いスタイル。メディアに登場する人々は、長い長い戦いの上に多くのライバルに勝ち抜いて来た人たち。甲子園大会に出場した野球部のようなもの。そう説明すると「1発屋」なんてバカにした言い方はできなくなる。そして甲子園と同じで出場しても1回戦で敗退することもある。それを勝ち抜いて優勝を目指す。野球は優勝すると、一応のゴールだが、芸能界はそれを何年も勝ち続けなければならない。ウケるギャグ、売れる歌なんて、そう量産できるものではない。

その意味で10年以上、芸能活動を続ける芸人、歌手というだけで凄いことなのだ。もう努力だけでは足りない。実力は必要だが、それだけでもダメ。運もある。大手事務所に所属すれば....と言うことだけでは行かない。映画界で映画を1本、監督する=1発ヒットを出すと同じ。全身全霊をかけた戦い。もちろん、テレビ局のドラマ部にいて上から「次、映画作るから監督して!」と言われてやる人もいる。しかし、一方では自分で資金を調達したり、借金をして映画を監督する人たちもいる。監督経験のない人に大金を出す映画会社はない。

監督になると、俳優選び。スタッフ集め。製作会社を決め、配給を決め、撮影現場を仕切り、推進して、観客が喜ぶ映画を作る。と言うより、1作目は完成させるだけで精一杯。出来不出来は置いて、ある程度のレベルで完成させるだけで死闘。俳優やスタッフがいうことを聞かない。プロデュサーが邪魔をする。ベテランスタッフがあれこれ言い出す。製作会社が製作費を抜く。そのために撮影日数が短くなる。「監督料が出せない」と言い出すPもいる(要は監督料を巻き上げたいのだ。監督はそれで辞めると言わないことを知っている)そんな人たちをねじ伏せて、我慢して、胃が切れる思いをしながら期日内、製作費内に完成させる。クオリティは二の次。

そんな状態。だが、観客にとって「初監督だからな」というエクスキューズはない。ベテランでも新人でも映画の入場料は1800円。その価値があるか?が問われる。ある程度、面白く話題になり、ヒットすれば、第二弾という話も出てくるが、惨敗すれば、もうどの会社も監督依頼なんてして来ない。「初めてなんだから〜大目に見て〜」という言い訳も聞いてくれない。自身で借金した場合は、返済できなくなり、アルバイト等をして返す。か、夜逃げ。ただ、映画界では「1発屋」とは呼ばれないが、第1回監督作品で終わる人も多い。映画作りは「死闘編」であり「最終回」の戦いなのだ。

そう考えていて、ふと自分を振り返る。僕は5本の劇映画と1本の長編ドキュメンタリー映画を監督した。映画監督デビューして、もう17年だ。10周年はお祝いしよう!と思っていたのに、気づくと17年経っていた。まだメガヒット作はないが、どれもヒットしている。評判もいい。お陰で監督依頼もある。そのためか、最近は批判もある。会ったこともない先輩監督が「あいつはダメだ。才能ゼロだ」とか「まだ、監督やってんのか? 信じられないなあ」とか言っている。が、彼らのプロフィールを調べると、もう10年以上監督していない。その人たちの言葉は評価と取るようにしている。

監督業も先の芸人さん達と同じ。努力は必要だが、努力だけでは行かない。そしてロングランするには、物凄い戦いがある。その意味で僕がここまで来れたのは、優秀なスタッフに恵まれたこと。(低予算映画でもギャラが安い!と文句を言われたことはない)そして、なぜか?第一線で活躍する有名俳優達が数多く出演してくれたことが大きい。当初はテレビ映画でよく見る人たちは面倒だと思えていたが、全く違って、第1線で活躍しているのは、小さな仕事でも、低予算の映画でも手を抜かずに全力でかかるからだと気づいた。そんなスタッフと俳優の力に支えられることで、いい作品が出来る。観客に支持される。それが次回作に繋がる。

こんな側面もある。世間では言う「好きなことばかり、やってられないんだよ!仕事なんだからよ」だが、僕は嫌な仕事、無意味に思える依頼は受けない。本当にやりたいものしかやらない。「世の中、甘くないぞ!」とよく言われたが、それで17年来てしまった。もちろん、そのことで仕事がなくなり、経済的にジリ貧の時期も長かったが、心に響かない作品は撮らなかった。ただ、「これはやらねば!」と思った時はギャラや予算。体調。健康に関わらずやる。そのために1年以上取材する。その間のギャラはないが、取材する。サラ金で生活していた時代もある。だから、映画が完成した時は借金の山?!けど、いいものができた。

あと、映画会社が喜びそうな企画を考えて売り込んでも、なかなか仕事に繋がらない。なのに本当に作りたい映画を作ろうとすると、苦労は多いが出来てしまう。そして評価され、ヒットする。「一発屋」の話に繋がる。ヒット曲を出そうとすると、ヒットしない。が、自分が歌いたい歌を歌い続けるとロングランできてしまったりするのではないか? 小室哲哉が作った歌もメガヒットしたのは、彼の人生を叩きつけたものであることが多い。美しい言葉を並べてヒットを狙ったものは、そこそこヒットだった。自身が関心のある課題と真剣に戦い、ヒットや儲けを考えずにやると、いいものが出来る。結果、ロングランする。映画でも、お笑いでも、歌でも、そこは同じなのかもしれない。


144698748_4971400386267559_9205383203717573495_n.jpg
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:映画