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日本の戦争映画の遍歴を解説。その辺を知ることができた1冊。 [戦争について]

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GHQ統治を終えて日本は一応、自由に映画が作れるようになる。そこで作られた戦争映画。初期は反戦。「軍の暴走」「日本人は被害者」「悲劇の結末」という三要素が色濃く出ていた。これが後々までの1つのジャンルとなる。敗戦間もない時期。後悔と反省。軍に対する憤りが強い時代。脚本家には特攻隊の生き残りもいた。同じ過ちを繰り返さないことを彼らは映画と通じて伝えようとした。

その後。戦争を舞台にした喜劇。軍記物としての戦争映画が作られる。幅が広がって行く。興味深いのはその後、反戦というより、「日本人はいかに素晴らしい戦いをしたか?」的な日本万歳の映画が登場する。その代表が「明治天皇と日露戦争」である。その解説を読むと、まさに10年ほど前からに日本と酷似。小林よしのりの「戦争論」がヒットしたのと同じ背景なのだ。なぜ、「戦争論」がウケたか?は以前、詳しく記事にしたが、「明治天皇と」も全く同じ理由。敗戦でアイデンティティを失った日本人が「強い日本」に憧れ求めた背景があったという。

「戦争論」の場合は、20年を超える不況からアイデンティティを持てない日本人が強く勇ましい日本に憧れたのが背景。そういえばドイツも第一次大戦で敗北。巨額な賠償金を払うことで不況。そこに登場したのがヒトラー。「強いドイツを取り戻す」と主張する彼を多くの国民が支持し、第二次世界大戦へと踏み出す。日本も「戦争論」が支持され、「強い日本」に憧れる若者たち(だけではないが)の前に現れたのが「日本を取り戻す」と言ったあの人であり、若い層が強く支持した。

いずれもアイデンティティを国民が持てない時代に、独裁者が登場。国民はそれを支持してしまう。そして「強い」=戦争と重ねて行く。安倍政権も戦争の一歩手前まで進んだこと。思い出す。ま、気付いていない人も多いけど。話を戻す。そんな「日本は素晴らしい」という戦争映画も登場。今でもその種のバラエティ番組が多い。自信を失った国民はそのように自分ではなく誰かが頑張ることで、自尊心を満たそうとするのだろう。

そして戦争大作の登場。オールスターキャスト。巨額の制作費がかかった作品。松林宗恵監督の「太平洋の嵐」「太平洋の翼」等の作品。だが、彼を初め、当時の映画人の多くは戦争経験者。スペクタクルとして描いても、その背後には「戦争はいけない」という思いが流れている。が、予算のかかる戦争ものはやがて作られなくなって行く。それが復活したのが「動乱」であり「203高地」。その後、数年、戦争大作が作られた。「連合艦隊」「大日本帝国」「零戦燃ゆ」

だが、大作路線もやがてヒットしなくなり、戦争からの年月の経過で戦争を知らない世代が増える。映画でも「ウインズオブゴッド」のように現代の若者がタイムスリップして戦時中に行くというような作品が増えてくる。観客にとっても、戦争はリアリティのない遠い世界の話になってしまったのだと著者は指摘する。この本はこの時代で終わる。この後の解説こそを知りたかったのだが、時間が立たないと客観的判断ができないとのことだ。

そこで僕が続きを解説する。この後に登場する戦争映画。戦争ではなくファンタジーとして描かれたものが主流となる。戦後生まれ、それも僕より若い人たちにとって、戦争はビデオゲームと同様の位置づけ。「宇宙戦艦ヤマト」や「ガンダム」のような世界としてしか理解できないから。体験していないので、そういうアプローチしかできない。そこには悲惨さや反戦メッセーはなく、カッコよさ、スペクタクルというまさにビデオゲームでしかない戦争ドラマを描いている。

さらには先の「戦争論」あるいは「明治天皇と」と同じ背景にある「永遠のゼロ」という作品も登場。「日本人は素晴らしい」「日本は凄い」というアイデンティティを確認するために戦争を美化した作品も作られた。「男たちの大和」も近いものを感じたが、安倍政権前後はその種の作品が増えた。また、戦争をしたい政治家たちがいることで、テレビも萎縮。毎年、終戦記念日に放送されていた戦争ドラマが年々、減って行く。映画でも戦争の悲惨さを訴えるものが作りにくくなったと聞く。

それが戦後から現代に至る日本の戦争映画の系譜。戦後すでに「日本凄い」映画があったことには驚いたが、時代背景を考えると、今と同じ。国民はそのようなものを求めることがよく分かった。が、戦場にも行った経験のある松林宗恵監督もなくなり、戦争を知る多くの映画人はもう現場にはいない。だから、ファンタジーとしてしか描けない作家ばかりなのだ。そんな時代にどう戦争を伝えるか?大きな課題だと感じる。


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