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「映画監督って毎日、ブラブラ遊んでばかり?」とある人に言われた。へーそう見えるんだ〜。 [映画業界物語]

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何年も前の話だが、ある地方で映画撮影をするために、準備をしていた。地元で年配のオヤジに、こう言われた。

「映画監督って仕事せずに、毎日ブラブラして遊んでばかりいるって聞いたけど、本当なの?」

明らかに悪意のある言い方。「お前らは怠け者だよな」と言いたいようだ。地方ではそんな風に笑顔で、質問する振りをして、辛辣なことをいう人がごくたまにいる。地元で映画を作ることに同意しない。あるいは「どうせ、失敗するだろう?」「ロクな映画はできないんじゃないの?」と思う人がそんなことを言いに来る。彼の住む街から依頼を受け。その街の素晴らしさを伝える映画を作ろうとしているのに....。

そんな時は「日本の監督は貧乏ひまなしで、ブラブラしてられるのはハリウッドの大監督だけですよ〜」とか、笑顔で言い返してやるのだが、監督業がそんなだとどこで聞いたのだろう? 映画監督というと皆、黒澤明をイメージ。怒鳴ってばかりいる怖い人という印象を持つ人が多いのだが、ブラブラしているという人は初めて。そもそも「遊んでばかりいる」監督なんて聞いたことがない。金持ちの家のボンボン(表現が古いなあ)でもないとそんな生活は出来ない。

監督業は撮影のイメージが強いが、映画製作で「撮影」は一部でしかない。映画製作は企画、準備、シナリオ、ロケハン、撮影、編集、ポスプロ、完成、宣伝、公開という流れ、その間、1年から2年。下手すると3年。監督は最初から最後まで付き合う。300万円のギャラをもらっても、3年かかると、1年100万。1ヶ月にすると十万円以下。サラリーマンの初任給より低くなる。その間、ずっと映画に関わる。ブラブラなんて出来ない。

が、あるとき気づいた。映画が完成し、次の作品にかかるまで、監督はあれこれ企画を考える。ベストセラー小説を読んだり、流行りの映画を見たり、仲間と飲みに行ってあれこれアイディアを出し合ったり。テレビ、新聞、雑誌をチェックしてネタを探す。先のオヤジはそんな段階での話を聞いたのだろう。この期間は企画を考えるにはとても重要なのだが、映画製作を知らない素人が見ると「遊んでいる」「ブラブラしている」に思えるのだろう。

監督依頼がなくて、2年3年、この状態である人もいる。が、皆、決して遊んでいるのではなく、必死でネタを探し、企画書にして、映画会社に持ち込んだりしている。が、簡単に企画が通ることはなく、数年間、撮影することなく過ごす監督たちも多い。そんな状態だけを見て「遊んでいる」「ブラブラしている」と感じた。自分たちの世界の価値観にはめて、会社に行かない。職場に行かない。「ブラブラしてる」と決めつけた。そんな話を聞いたオヤジは「映画監督なんて、そういう人種なんだ」「信用しちゃいけないなあ」「毎日ブラブラ」「騙されないようにしよう」と考え皮肉を言いに来たのだろう。

芸能や映画の世界。理解は難しい。誤解されることが多い。例えば歌手を見て「毎日、歌ばっかり歌って、それで金になるんだから、いい商売だよ」と思いがち。毎日、歌う大変さを知らない。カラオケボックスで歌うのと、ステージで客を感動させる歌がどれだけ違うか?分かってない。監督業も「女優と飲みに行ったりできる。うらやましいなあ〜」という人がいるが、プロの女優を知らないから、そんなことが言える。また、趣味の延長だと思われがちだが、この世界は「生馬の目を抜く」毎日。賽の河原で石を積むような仕事だ。それが理解されない。ま、仕方ないのだが、そんなことを時々考える。


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