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シナリオを書くときに心がけていることがある。 [映画業界物語]

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シナリオを書くときに心がけていることがある。3つだ。

① ロケ地を生かした物語にする

② 俳優の力を発揮できる役を考える

③予算とスケジュールを考えた物語にする。

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①は制作依頼が地元から来たものであることが多いからだ。基本は地元の魅力をアピールすること。ただ、観光案内映画になっては意味がない。地元の方は喜んでも、観客は入場料を払ってPR映画を見たくはない。そして、地元の希望する観光地、売り出したい場所で、そのまま撮影しても映画として面白くならないことが多い。

むしろ、地元の人が気づかない場所。建物で魅力あるものを描くことが大事。地元にいると当たり前になっている場所が、他の街から見ると魅力的であることが多いからだ。それらの場所をシナハンで探し、見つけ、把握して、物語に入れ込む。ロケ地が単なる物語の背景になってはいけない。ロケ地はもう一人の主役でもある。その場所が生きる設定で、物語でなければならない。

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②通常は作家があれこれ考えて、キャラクターを作り、物語を進める。基本はテーマを描くために相応しい年齢、性別、職業を考える。犯罪ものなら警察官をメインにするとドラマを進めやすい。が、それに加えて、太田組レギュラー陣の俳優さん。あるいはこれまでに出てもらった役者に皆さんをイメージして役を作る。あるいは出て欲しい俳優さんで考える。

先に役を考えてから、依頼した場合。俳優はその役に近づこうと努力してくれるが、どうしても出来ない部分もある。しかし、その俳優さんをイメージして役を作れば、その人以外はできない役になる。「太田組作品に出る俳優さんが輝いている」とよく言われるのは、そんな手法で物語を作るからだ。もちろん、その人をイメージしながら、出演してもらえないこともある。

あるいは、今まで知らなかった俳優さんが演じる。その時は本人に合わせて役を直す。オートクチュールと同じ。その人に合わせて、丈や裾を直すのだ。ただ、その人がいつも演じるタイプの役にはしない。それではご本人もやる気が削がれる。新しい、演じたことのない役だからこそ挑戦したくなるのが俳優なのだ。だから、高めのハードルを用意させてもらう。

「向日葵の丘」の常盤貴子さんも依頼する前から、彼女のイメージでシナリオを書いた。出演を快諾してくれたから良かったが、ダメなら大変だった。が、彼女のイメージで行きたかった。だから、役名も「貴子」ならぬ「多香子」にしていた。

「明日にかける橋」の田中美里さん。藤田朋子さんも同様。あの方々もご本人に合わせて役を書かせてもらった。それぞれの魅力が120%出る役を考え抜いた。「青い青い空」の波岡一喜さんも同じ。八代先生の役は彼しかできない。前作「ストロベリーフィールズ」に出演してもらった時の印象をベースに書いた。

「朝日のあたる家」の山本太郎さんも同様。彼が本当に言いたいことを想像してセリフにした。シナリオを読んだ時、「俺が言いたいことが全部書いてある!」と言ってくれた。彼が言いたいだけではない。それは僕の思いでもあった。そんなふうに俳優の思いが篭る。そして作家の思いがダブる役柄やセリフがとても大切。

こんなこともある。シナリオを書く時、この物語であの俳優さんに出てもらうとすると、どんな役がいいかな?と考える。お姉さん。お母さん。近所のおばさん。先生。OL。女性警官。あれこれ役柄を考えながら、その役が物語を紡いで行けるかどうか? 検討する。単に出るだけでは意味がない。テーマを紡ぎ出す役割を担わなければ、その役は無意味になる。そして、単なる脇役というのも良くない。どんな役でも意味がある。

そして見せ場を作りたい。そのことで物語も面白くなるし、俳優も演じがいが出てくる。ある時は、エピソード5つ。主人公はいるが、それぞれのエピソードでゲスト主役的な役を考える。それぞれの俳優さんを当てはめてみる。そんな方法論も使う。

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③予算とスケジュールを考えた物語にする。これも大切だ。シナリオ学校では「予算を考えずに自由に書け」とよくいうが、そんなことをして、後で予算に合わせて縮小すると、小粒の作品になってしまう。1億かかるシナリオを1千万に直して撮っても面白くならない。なら、最初から1千万で物語を考えた方がいい。また、スケジュールも大事。シナリオでいろんな場所が登場すると、その数だけ、撮影のために移動せねばならない。機材積み込みに1時間。移動に1時間。積み下ろしに1時間。それで3時間必要。それなら場所を集約した方がいい。移動せずに撮影ができる場所にする。

また、俳優も、シーン1、シーン5、シー28 に登場とすると、それらをまとめて撮影する。俳優を呼んだり帰したりも大変。しかし、それらの撮影場所がバラバラだと先と同じ問題が起きる。そこで、俳優の出番、ロケ地を同時に考えて、効率よく撮影できるように物語を考える。

そして、全部撮り切るのに最高でも3週間で済むように書く。ただ、そんな制約があると、物語を成立させるだけで精一杯。面白さがなくなることが多いのだが、そこがプロの腕。それでいてハラハラドキドキできる物語を作るのが技術であり、実力なのだ。

だから、太田組作品は製作費の3倍近いことができる。例えば3千万で撮っても1億円かかることができる。もちろん、シナリオだけでなく地元の皆さんの応援があってのことだが、3倍の予算がないとできないことを毎回、やっている。その第1歩がシナリオ。

ルービッキューブの6面を同時に合わせる作業に近い。「俳優」「予算」「ロケ地」「物語」「時間(スケジュール)」「スタッフ」この6面。全部はなかなか揃わない。どこかで歪みが出ることもあるが、スタッフの皆さんがカバーしてくれ、いつもクオリティを下げずに完成させる。毎回、そんな電撃作戦。不可能実行指令?その第1歩が先の3つを抑えたシナリオなのである。


 
 
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